~ 作品ができるまで Part 2 ~
 

 
 前回の「クラウン・ミッフィー(ボーンチャイナ)」に引続きまして、
 「加藤工芸(株)」さんの制作した「ミッフィー50th・フィギュアセット」が出来上がるまでをお見せします。
 この「作品」は、ご存知の様にこれまでのミッフィーの変遷を表現した物ですが、1つ1つを本当に気を抜くことなく
 職人さんが「原型」を作り、それを元にして製品化しています。
 ご自分のコレクションの1つが「こうやって作られる」という事を、知って頂きたいと思います。
 
 ※都合により、急遽見れなくなる場合がありますので、ご了承下さい。
 

 

 
 
 ★「ミッフィー50th・フィギュアセット」製作過程
 
1. デザインのラフを作成します
   ↓
2. 原型を製作します
   ↓
3. 石膏型を取ります
   ↓
4. 色見本サンプルを製作します
   ↓
5. 版権元に提出し色校正のOKをもらいます
   ↓
6. 生産します
   ↓
7. お客様のもとにお届けです!
 
 
 
 大まか流れとしましては、前回の「クラウン・ミッフィー(ボーンチャイナ)」と同様で、上記の様になっています。
 
 今回は、5体のミッフィーと「シリアルナンバー」が書き込まれている「プレート」がありますので、全部で6種類の「原型」を作ってからの制作です。その6種類の「原型」に対して、1~6の作業を必要とします。

 更に、今回は「フィギュア」本体とその下に付けられる「台座」を別々に作られていますので、前回の「クラウン・ミッフィー(ボーンチャイナ)」以上に手間と時間の掛かる作品でした。

 「3.石膏型取り→4.色見本サンプル製作」では、複雑な「焼成」という流れがありますが、
 今回は「ボーンチャイナ」ではありませんので、「焼成」で焼かれる温度は若干高めに設定されます。

 「鋳込み」という作業で石膏型に(粘土を水に溶かして、どろどろのコロイド状にした)「泥漿(でいしょう)」を流し込んでできた「生素地(なまきじ)」を800度くらいの温度で素焼きします。

 釉薬・ゆうやく(ガラス質の、最後には「ツヤ」っと光るコーティングの様なモノ)を掛け、1250度くらいの温度で本焼きをします。

 この後、「フィギュア」本体に「絵付け」(色を塗り)をして780度くらいで焼成します。
 また「台座」にも「」の年号を貼り、こちらも740度くらいで焼成します。
 「シリアルナンバー」のプレートも同様に740度くらいで焼成して作られます。

 ここまでを「焼成」と呼んでいますが、大体4~5回程度焼成するので、かなりの手間になるとのことです。

 
 
0.はじめに・・・

 今回も前回の「クラウン・ミッフィー(ボーンチャイナ)」でお伝えした「制作秘話」と同様、
 加藤工芸の吉田綾子さんにご協力頂きました。
 今回は前回の「制作秘話」より更に深いところまで話してくださったので、皆さんにも更に
 深いところまでお伝えしたいと思います。

 「いつも頑張って作っていますけど、今回はいつも以上に手が掛かっていて、
  たくさんの思い出があるので、こうやってホームページに出ると本当に嬉しいです!」


 と、吉田さんはいっぱい話してくれました。

Ⅰ.「専用ケース」について

 今回は以外にも、パッケージ(専用ケース)にかなり時間が掛かったとの事です。
 まず外箱について、当初は横長の箱を考えていたそうですが、「ミッフィー」=「絵本」=「正方形」
 という事で、現在のこの形になったそうです。

 「専用ケース」の内部にも、とてもこだわっています。
 やはり、ミッフィー達をしまっておきたい、と思う方も多いはず。

 「今回、使用した生地『サテン生地・サテンリボン』は『シャンパンカラー』を使用しています。
  一番合うと思った生地をあちこちで探して回って、『コレ!』という物を
  大量に買い込んで製造工場まで送って、それを使ってもらいました。
  同じ生地ってそんなに大量に無いので、見つけるのに結構苦労しました。」


 「専用ケース」内部に使用している「サテン生地」はとても綺麗な生地で、ミッフィー達がサテンに包み込まれてとても気持ち良さそうでした。

 「生地の色については、実は2つの色でどちらにしようか、凄く悩みました。
  今回は『シャンパンカラー』を採用しましたが、
  『ロイヤルブルー』もとても良い感じだったので、
  最初はこちらを使いたかったんですよねえ。
  『ロイヤルブルー』は、本来は王室のカラーでとても気品があって、
  うちもそういうイメージにしたかったんですけど、
  どうも合わないんですよ・・。
  逆に安っぽくなっちゃうんです・・。
  結果的には『シャンパンカラー』にしたのですが、
  今ではこちらを採用してて良かったと思ってます。」


 と、加藤工芸の吉田さん。
 お話では2種類から選んだと言っていましたが、最初は数種類の生地を用意して何度も比べたそうです。その中から最終的に2つに絞り、最後に「シャンパンカラー」に決めたそうです。
 ↓が、加藤さんが見せてくれた「サテン」の候補です。一番左がその「シャンパンカラー」です。
 
< 使用した「サテン」の候補 >
 
 
Ⅱ.「フィギュア」本体と「台座」について

 ミッフィーの「フィギュア」を見ますと、「フィギュア」本体とその下に付けられる「台座」とで若干の色の違いがある事が分かります。この違いについてどういう意味があるのか伺ってみました。

 「ミッフィーの顔の色と土台の色が若干色が違いますけど、わざとですよね?」

 「(キッパリと)もちろんです!
  フィギュア本体と、その下の土台は別々に作っています。

  この土台は、材料となるその土に、上品なアイボリーカラーを練り込んで作っています。
  単にアイボリーで塗った物では無いので、当然ムラにもならないですし、
  落ち着いた色合いになるのです。
  このカラーに、どんな物を使用しているかも話したいのですが、ここでは
  話しきれませんので、『上品なアイボリー』って事にしておいてください(笑)

  とにかく、このアイボリーは『金』との相性も凄く良いんです。
  土台には、この子達の年号を『金』で転写するのですが、
  このアイボリーの土の色とピッタリ合うので、上品さもアップするのです。」


 「台座」に混ぜ込まれている「カラー」については、以前加藤工芸さんの専務さんからも説明を受けていまして、あまり詳しくは話せませんが、[アメリカの公式晩餐会で使用される食器のカラー」がその背景にあり、その上品さを取り入れたそうです。
 単なる「カラー」ですが、こういったところにもこだわりを持って作っているようです。

 「最初、この子達の年号の色は(色々な事情で)『黒』にする予定だったのです。
  でも(専用ケースに収納した際)サテンに包み込まれた時、
  絶対に『金』とのバランスの方が良いと思ったのです。
  ですから、各方面にお願いして、『金』を使わせてもらいました。」

 ちなみにこの年号の部分で使用している「」は、本物の「」を使用しているとの事。こだわりについては、とことん力を抜かない、加藤工芸さんの体質を見た気がしました。

 「台座」を「フィギュア」本体とは別に作った理由について、たくさんの話を聞かせてもらいましたが、一番大きな理由は、

 「ミッフィーの顔だけに綺麗な『ホワイト』を使いたかったのです。」

とのことでした。

 今回のこのセットには、当初このフィギュアセットを飾るための木台も考えていたとの事。
 でも、前回の「クラウン・ミッフィー」と同じになってしまう事や、今回は1体1体に土台が付いているので、それぞれをあちこちに置いて飾ってもらうのが良いのではないか、という事で木台は止めたそうです。

 「1体1体に土台を付けたのには理由があって、
  この子(1955)とこの子(1995)のせいなんです。
  見てお分かりの様に、この2つは自分で立つ事ができないんですよね。
  動きのあるミッフィー(元気なミッフィー)は自分で立てないんです(笑)」

と、笑って話してくれました。
 
 
Ⅲ.「転写」と「焼き(焼成)」について

 色々とお話を伺って、この作品はこれまでの「磁器製品」と比較して、凄く手が込んでいる事がよく分かったのですが、とにかく面倒だなあと感じたのは、要所要所で行われる「焼成」が大きな原因なんだ、と思いました。

 「フィギュア」本体だけでなく、「台座」の年号や「シリアルナンバープレート」など、各所で「焼成」が繰り返されます。「転写」の際は必ず焼くとの事で、特に「シリアルナンバープレート」などはイラストを「転写」をした上から更にナンバーを「転写」をするので、「転写」の度に焼いて定着させるそうです。



 「フィギュア」本体とその下の「台座」の接合は、ガラス質の釉薬で着けているとの事。ボンドなどでは取れてしまうので、磁器を塗る釉薬を接着剤代わりにして本体と土台をくっ着けているそうですが、その時もまた焼いて接合しているとの事です。

 「転写は、とても薄いフィルムの様な物を貼るんですけど、
  ちょっとしくじるとビョーン伸びるので凄く難しいんです。」


 「転写」についても、色々と詳しく説明してくれました。通常の「転写」には「水転写」と「焼き転写」の2種類があるそうですが、今回は「焼き転写」であることを聞いて、「なるほど、そうか。」とすぐに納得できました。

 「でも、ミッフィーの目と口だけは、譲れませんでした。
  目と口だけは転写ではなくて、1つ1つうちの職人さん達の手で描き込まれています。」


 と、吉田さん。
 ミッフィーの目と口の他に、服の色も職人さんの手で1体1体描き込まれるそうです。もちろん、絵付けしてからも焼くのですが、今度は焼いた後の色の出し方がとても難しいそうです。

 「特に、ブルーナレッドは陶器商品では出にくい色なのです。
  これは赤系統の色や濃い色が一番難しく、
  塗って焼いてみないと分らない、というところにあります。
  また、手彩色での筆ムラや塗り重ね、
  そして焼成温度の全てが上手くいかないと出せない色。
  これがブルーナレッドなのです。」


 でも、多少の色ムラは陶器の良さと思いました。
 「丁寧な手作りの証し」でもあることですよね!
 当然の事ながら、失敗してしまったミッフィーは商品にはならないので、吉田さん達も一緒に製作現場で商品チェックをしたそうです。


 さて、出来上がりまでの各工程につきましては、写真などをお見せできないのですが、今回もとても貴重な「ミッフィー50th・フィギュアセット」の「原型」をお見せします。なかなか見る事がないと思いますので、じっくりご覧下さい!
 
 
     
  1.「ミッフィー1955(first miffy)」の原型  
     
   写真は「1955」の原型です。
 この「ミッフィー1955」は、これまで誰も3Dの形にした事がなかったミッフィーだったので、
 セットの中でも特に難しかったとの事です。
 
 
     
  「1955」の正面   「1955」の背面  
     
     
  2.「ミッフィー1963」の原型  
     
 
 とんがり耳のミッフィーが好きなファンが多い中、この原型はとても感動物ですね。
 これで、貯金箱やガラスの置物とか、色んな商品が出ると面白いと思いました。
  
 
     
  「1963」の正面   「1963」の背面  
     
     
  3.「ミッフィー1988」の原型  
     
 
 見た感じ、目と口がしっかりと作られていますが、実際はこれを元に型を作って
 製品を作りますが、最後に焼くと、ぐっと縮んで締まるので、目も口も少ししか
 残りません。その締まり具合も考えて原型は作られます。
 
 
     
  「1988」の正面   「1988」の背面  
     
     
  4.「ミッフィー1995」の原型  
     
 
 動きのあるミッフィーが立体にされています。
 本当に上手に作られていますね。
 
 
     
  「1995」の正面   「1995」の背面  
     
     
  5.「ミッフィー2003」の原型  
     
 
 ミッフィーがバンザイをしています。
 細かいところが、とてもよく表現されています。
 
 
     
  「2003」の正面   「2003」の背面  
     
     
  6.「シリアルナンバープレート」の原型  
     
 
 「フィギュア」のみでなく、こういった付属品にも力を入れているところが
 加藤工芸さんの凄いところです。
 
 
     
  「シリアルナンバープレート」の正面   「シリアルナンバープレート」の背面  
     
 
 
 
 更に、前回の「幻のクラウン・ミッフィー」同様、なかなかお目に掛かれない「幻のフィギュアセット」をお見せします。

 材質は全く変わりはありませんが、制作企画の段階でやはり「ビスク仕上げ」と「グレーズ仕上げ」の2種類を比較し検討しておりました。この「ビスク」と「グレーズ」の違いは「ツヤ」が有るか無いか、光沢が大きく違います。

 最終的にはどちらかに決めて、残念ながら片方を「幻のフィギュアセット」にしなければならなかったのですが、ミッフィーと素材や質感のバランスなど、色々な事を考慮しまして、「グレーズ仕上げ」に決まりました。

 そして、今回採用されなかった「幻のフィギュアセット」が、「ビスク仕上げ」となったコレ↓です。
     
     
  1.「幻のフィギュアセット(ビスク仕上げ)」  
     
   
     
     
  2.右は今回採用された「グレーズ仕上げ」の「フィギュアセット」の「1955」で、左は世界で1つだけ
 の「ビスク仕上げ」の「1955」です。
 
     
   
     
     
 見た感じはもちろん、手触りもどちらも本当に素晴らしいです。

 加藤工芸さんのデザイナー吉田さんは、

 「私の中では、今回はすんなり、グレーズ仕上げに決まってしまいました。
  ビスク仕上げは、もっと別の時(!)に使いたいですね。」 

 
と、お話していました。


Ⅳ.最後に・・・

 吉田さんから色々とお話を伺って、フィギュア1体1体を本当に丹精込めて、作っている感じがとてもしました。
 社内の原型師が元の形(原型)を作るのですが、最終的に版権元からOKをもらうために、作る材料(粘土)など道具を全部、版権元に持ち込んで、その場で何度も修正を繰り返してOKをもらったそうです。
 特に「1955(ファーストミッフィー)」については全員が初めての事だったので、とても時間が掛かったそうです。

 吉田さんもミッフィーが大好きだそうで、ところどころ話の途中でミッフィーの事を「この子」と表現していたのが
とても印象的でした。
 こういう方に作ってもらえると、ミッフィーも幸せですよね。

 以上です。